定番散歩の後事務所に戻ると2人の知人がお茶していた。富岡酒店店主と
土沢氏(パソコン119番)が地元紙を広げて頻りに首を傾げ、
ーどうして上宿町で火事が続くのかーと、昨日未明に発生した、
上宿町の住宅火災について推論を交わしていた。確かに不思議である。
いくら木造住宅が密集しているとはいえ、こう、頻繁に出火したのでは、
知人の井戸端会議では済まされない。早期の出火原因の発表が待たれる。
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温泉怪獣あたみん防衛計画〜温泉街の大ピンチ(齊藤想)その3
某温泉街の陰謀は着実に進んでいた。作業員のドリルが土壁を崩す。すると、
ポロリと土塊が落ちて左右に繋がる巨大な通路が現れた。その通路を歩いていくと、
その先に「温泉怪獣あたみん」の部屋があった。そこで、
作業員は驚きの光景を目撃する。作業員からの連絡を聞いた右近充は、
高速道路を飛ばして現場に駆けつける。その表情は堅くこわばっていた。
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いつもと違う会長の様子に、運転手は戦々恐々とするだけだった。
某温泉街の攻勢の前に、もはや手段は残されていないのかと思われた。
一人で動いて失敗ばかりしている貫井は、会議の場で孤立していた。
熱海市観光協会は沈痛な空気に包まれた。そこへ、
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岸から某温泉街の会長の車が工事現場に入ったとの速報がもたらされた。
岸は貫井の熱意に感化され、仕事無視で現場に張り付いていたのだ。
守るだけではダメだ、の声がどこからか上がる。
口に出さないだけで、実はみんな貫井に感化されていたのだ。
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「いまあるのは行動あるのみ」熱海市観光協会は全員で
工事現場に向かうことにした。岸もカメラを持って車に乗りこむ。
熱海を思う気持はみんな一緒だ。危機を目の前にして熱海は一体となった。
熱海市観光協会のグループは、門番を投げ飛ばして工事現場に突入した。
激しい戦いのすえ妨害を切り抜けて「あたみん」の部屋に行くと、
そこで驚愕の光景を見た。なんと、「あたみん」の部屋に、
もう一匹の温泉怪獣がいる。呆然としていた右近充が、
われに返ると状況を説明する。「”あたみん”のとなりにいるのは、
わが温泉街の温泉怪獣だ」
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右近充の手下が、熱海市観光協会の会長に掴みかかる。
「てめえら、おれらの温泉怪獣を盗みやがったな」
「ばかなことをいうな。盗もうとしたのは、お前らじゃないか」
手下の腕を貫井が見事に押さえ込む。そのとき、
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小さなふにょふにょした暖かな生物が、貫井の胸に飛び込んできた。
ほのかに硫黄の香りがする。温泉怪獣の子供だ。しかも一匹ではない。
三匹もいる。温泉怪獣のカップルは、中睦まじそうに身を寄せ合っている。
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某温泉街の温泉怪獣は死にそうになっていたのではなかった。
出産が近い妻の元に寄り添っていただけだった。温泉が弱まった理由は、
温泉怪獣が留守になったからだ。若者の危機を救った温泉も、
温泉怪獣が移動したときに吹き出たものだ。
若者はトンネルの入口からの方向と距離を計算した。
どうやら「あたみん」が暮らしているのは大楠の下のようだ。
ここで「あたみん」は静かに熱海を見守り続けている。(つづく)
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